トップメッセージ

2020年8月

「変革2027」で描いた未来を一つひとつ実現し、環境変化の激しい時代に、新たな価値を創造し続ける企業グループを目指します。 東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長 深澤祐二

気候変動や感染症の影響を大きく受けた2019年度

当社グループは、2018年7月にグループ経営ビジョン「変革2027」を発表し、これまで築き上げたお客さまや地域の皆さまからの信頼を基盤に、「ヒト(すべての人)」を起点として“信頼“と“豊かさ“という価値を将来にわたって創造し続ける企業グループへの変革を目指しています。2019年度を、本格的な実行フェーズと位置付け、新幹線eチケットサービスの開始やJRE POINTの利用シーン拡大、次世代新幹線「ALFA-X(アルファエックス)」の走行試験など、「変革2027」の達成に向けた新たな価値創造を着実に進めることができました。

しかしながら、2019年10月の台風第19号の影響により、浸水被害や新幹線の運行休止など当社グループも甚大な被害を受けました。さらに、2020年2月以降の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、鉄道をご利用になるお客さまが大幅に減少するとともに、生活サービス事業についても、駅構内店舗や駅ビル、ホテルなどのご利用実績が軒並み減少しました。2019年度は、上期と下期では全く違う状況となり、まさにアップダウンの激しい1年であったと言えます。

その中で、私が改めて課題認識を強めたのが、災害に対する備えです。我々には「想定外」という言葉は存在してはならず、常にあらゆる災害を想定し、備えを整えることが最も重要な責務です。さらに忘れてはならないのが、これらの災害がもはや100年に一度と言われるようなものではなく、今後、我々の日常の裏に存在し続けるものであるということです。我々はあらゆる災害への備えを強化するとともに、サスティナブルに成長することで、社会に価値を還元し続ける存在でなくてはなりません。2019年度は、この「サスティナブル」という言葉の重みを、改めて深く心に刻み込みました。

「変革2027」の歩みをスピードアップさせる

10年後の未来を想定すると、人々のライフスタイルの大きな変化が予測され、我々を取り巻く環境は非常に厳しいものとなります。現在のビジネスモデルを継続するだけでは、明るい未来を描くことはできません。環境の変化に対応するため、我々は「変革2027」で「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から、「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していくという基本方針を打ち出しました。

新型コロナウイルス感染症によって、日本が抱えているさまざまな課題が浮き彫りとなり、我々が10年後に思い描いていた世界が、まさに目の前に訪れたのだと思います。前向きに捉えれば、「変革2027」で目指している方向性は間違っていなかったこと、そしてその歩みを、より一層スピードアップさせる必要があることが明らかになったと言えます。

我々が担うべき社会的使命を完遂しながらも、浮き彫りとなった課題解決に取り組み、変革の歩みをスピードアップさせ、成長・イノベーション投資を着実に実行します。また、今後の移動需要の早期回復に努めることで、この難局を乗り切っていきます。

新たなビジネスモデルの構築に取り組む

代表取締役社長 深澤祐二 画像

現在当社グループは、輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスという3つの事業フィールドを有しており、主要事業である輸送サービスによって、安定的なキャッシュ・フローを創出しています。しかし人口減少やテレワークの推進などにより、今後移動機会の減少が想定されます。輸送サービスがダウントレンドに入ることも見据えて、「変革2027」では、生活サービスおよびIT・Suicaサービスに経営資源を重点的に振り向け、輸送サービスとそれ以外の事業比率を、7:3から6:4に変えていくことを目標としています。そして、この3つの事業を融合させる基軸となるのは、すでに当社グループが多数のお客さまとのつながりを持っているSuicaです。現在、あらゆる場面でSuicaを使用可能にする共通基盤化を進めています。決済までを含めた事業をベースに、あらゆるサービスをシームレスに連携させ、新たな価値を提供することが、当社グループがこれから目指すべき一つのビジネスモデルとなります。我々はリアルな接点としての入口は多数有していますので、今後のEコマースやデジタルマーケティングの拡大などに応えるべく、新たなインフラの整備やデジタルトランスフォーメーション(DX)への取組みなどを進め、リアルなネットワークをバーチャルにも広げて、お客さまや地域社会の多様なニーズにスピード感を持って対応していきます。

もう一つ、重要なのは「まちづくり」です。これまでは、鉄道を主軸にどれだけ快適にするかという視点で、駅や駅周辺施設(駅ビルやホテルといった商業施設)の開発に力を入れてきましたが、今後はこの取組みをもう一段進め、「まちづくり」そのものに関与していきます。「ヒト起点」での発想をベースに、これからの時代の住みやすさや働きやすさを追求し、また、シェアオフィスのさらなる展開やスタートアップ企業との連携などによりビジネスの幅を広げ、より一層の収益力の向上を目指していきます。現在、2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅を核としたグローバルゲートウェイ品川の開発を進めています。我々だからこそできるまちづくりのモデルケースとすべく、新たな価値観や機能、街と駅が一体となったデザインの構築など、世界中から先進的な企業と人材が集い、新たなビジネス・文化が生まれ続けるまちづくりに挑戦しています。

グローバルな社会課題を解決する

グローバル展開は、これからの当社グループの成長に欠かせない取組みです。150年の歴史を有する鉄道事業、その中で培ってきた文化やノウハウ、テクノロジーを海外に共有することで、グローバルな課題を解決するだけでなく、当社グループの大きな成長につなげます。例えば、発展が著しい東南アジアでは、現在、交通渋滞が社会・環境の両面で大きな問題となっており、これはまさに鉄道が解決できる課題です。生活サービスでも、シンガポールや台湾、ジャカルタなどで事業展開しており、国内で進めるグローバルゲートウェイ品川などの開発事業とも連動させていきたいと考えています。

グローバル化は、人材育成の面でも大きな成果を得られると確信しています。鉄道事業では、日々決められた仕事や役割を果たすことが求められ、社員は内向き思考に陥りがちです。海外で働くことで仕事の幅が広がるとともに、さまざまな課題に対応することで人間的にも鍛えられ、成長することができます。特に若い人材を積極的に海外に送り出すことにより、次世代を担う人材として成長させます。約10年前から海外事業を展開していますが、そうした人材が大きく成長しているという手応えも感じています。海外を経験した社員が日本に帰ってきて、新たなことに挑戦するという好循環を繰り返していけば、当社グループにとって大きなプラスになると期待しています。

ESGを推進することが当社グループの社会的使命

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当社グループは、1987年の発足以降、「地域密着」を経営の原点に掲げ、CSR(企業の社会的責任)の観点から地域社会の発展に向けた取組みを進めてきました。しかしながら、人口減少や高齢化、地域経済の衰退、地球環境問題をはじめとする社会的課題がかつてないほど深刻な形で顕在化しつつあります。そうした中、事業活動を通じて地域社会の課題解決に取り組む「ESG経営」は、今まで以上に社会の一員として果たすべき責任を全うし、地域の皆さまやお客さまの信頼を確固たるものとしていくという点で、当社グループが長期にわたって成長を続けていくために必要不可欠なものです。

「環境」については、鉄道は元来環境負荷の低い移動手段として注目されてきました。しかしながら、我々は企業活動の過程でCO2を排出していますし、多くのエネルギーも使用しています。そこで次のステップとして、「脱炭素社会」への貢献とともに、鉄道の環境優位性のさらなる向上とサスティナブルな社会の実現を目指し、2020年5月、環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ 2050」を策定しました。2050年度の鉄道事業におけるCO2排出量「実質ゼロ」の実現に向けて、さらなるエネルギーマネジメントの実践や、水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)の実証実験に取り組むなどのエネルギー多様化、外部と連携したイノベーションへの挑戦を積極的に行っていきます。

「社会」の側面で言えば、当社は2011年の東日本大震災以降、どのように復興に取り組み貢献していくかを大きなテーマとしてきました。2020年3月には、震災により運転を一部区間で休止していた常磐線が全面開通し、東日本大震災で被災した線区のすべてがつながりました。今後、復興における第2ステージとして、被災地域の活性化を促進するための、新しいエネルギー社会の構築に向けた取組みに対する支援や観光業支援など、我々に何ができるのかを引き続き検討し、さらなる復興に貢献していきます。

加えて、地方都市との多数のネットワークを有する当社グループにおいて、地方創生への取組みも重要な課題です。信頼をベースに、地域事業への投資や雇用の創出、新たな事業者の呼び込みなど、地方が成長し続け、自立できる仕組み(エコシステム)が循環していくよう、地域と一体となった開発を進めていきます。例えば、農業では6次産業化などを地域と一体となって進めており、仙台では、津波により被害を受けた住宅移転跡地を市から借り受け、果樹農園をつくっています。これをアグリツーリズムといった価値と結び付けることで、単純に何かをつくって売るだけではなく、継続的、循環的に利益が創出されるシステムの構築に挑戦しています。

「ガバナンス」では、上述した取組みをいかにサスティナブルなものにしていくか、また、当社グループの経営のトッププライオリティである「究極の安全」に向けたリスクの低減やコンプライアンス体制の強化、さらには、経営そのものの「安全性」確保に向けたガバナンス体制の構築などに引き続き取り組みます。また、社外取締役比率の向上や、取締役の任期を1年に設定するなど、企業として求められるガバナンス上の要請にも一つずつしっかりと対応していきます。

これからも、グループ一体となってESG経営を実践し、事業を通じて社会的な課題を解決することで地域社会の発展に貢献するとともに、SDGsの達成に力を注いでいきます。

困難な時代だからこそ、力強くグループを牽引していく

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2019年度、我々は価値観を大きく揺さぶられるような出来事に直面しました。顕在化した課題には迅速に対応する一方で、長期的な視点で未来を見据えた取組みを続けていくという方針は変わりません。足元のリスクに備えることも重要ですが、それだけに終始することなく、未来に向けて我々が取り組むべき課題は何かをしっかりと見極め、変革の歩みをさらに加速させ、必要な投資やイノベーションの創出を実践していきます。もちろん、足元の厳しい業績や財務状況を踏まえた当面の戦略として、安全に影響の出ない範囲での維持更新投資の抑制・延期など、施策の優先順位に合わせた投資判断を個別に検討していきます。

新型コロナウイルス感染症と共存する時代の「ニュー・ノーマル」においては、「安心」「清潔」が不可欠です。安全および品質の確保を大前提に、マスクの着用、消毒・換気やソーシャルディスタンスの確保などを徹底し、お客さまに安心してご利用いただける環境を提供することを、まずはしっかりと意識していきます。また今後、中長期的にお客さまのご利用が新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準まで回復しない場合を見据え、将来にわたり、安全かつ利便性の高いサービスをサスティナブルに提供するために必要な運賃やダイヤのあり方などについても検討してまいります。不確実な市場環境の中において、我々は訪れる変化をプラスに転じていくような、レジリエントな変革に引き続き取り組んでいきます。すべては社会のサスティナブルな発展につながる価値創造を念頭に据えていますので、ステークホルダーの皆さまには、これまでと変わらず当社グループを信頼していただき、ご支援を継続していただきたいと思います。

東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長
深澤 祐二