トップメッセージ

2021年8月

逆境を絶好の機会と捉え、「変革のスピードアップ」によりさらなる成長に向けて新たな価値を創造し続けます。 東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長 深澤祐二

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を色濃く受けた2020年度

2020年度、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、人々のライフスタイルや働き方が大きく変化しました。当社グループにおいても、ご利用のお客さまが大幅に減少したことにより、1987年の会社発足後初の赤字決算となるなど、非常に厳しい一年となりました。経営トップとしてこの結果を重く受け止めるとともに、再成長に向けたさまざまな施策に覚悟を持って取り組んでいく考えです。

一方で、このような厳しい環境下においても、グループ全社員の力を合わせた取組みにより、社会基盤である輸送サービスをはじめとした社会的使命を果たせたことで、改めて当社グループの底力を認識することができました。また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に合わせて予定していたバリアフリーを含めた駅の大規模リニューアルや新たな駅ビル・ホテルの開業といった、将来に向けた事業についても、当初の予定通り達成することができました。

この一年、改めて分かったことは当社グループの事業構造における固定費の高さや、駅を中心としたビジネス展開の弱点です。輸送サービスの需要が縮小する中で、いかに固定費を下げるかが大きなポイントです。2020年度は緊急的なコストダウンを実施しましたが、今後も引き続き事業の基本となる事項の見直しやDX推進による構造改革を進め、コスト構造を柔軟化していきます。そして、それに合わせた社員の働き方改革に取り組まなくてはいけません。特に社員の皆さんにおいては、当社グループが安定的な会社であるというこれまでの認識を変えざるを得ないと実感したと思います。その結果、社員一人ひとりが自分の職場において何をするべきか、自発的に考え行動に移すというマインドが生まれてきていると感じています。

コロナ禍は、当社グループに甚大な影響をもたらしましたが、私たちはこれを、会社を変革する絶好の機会と捉え、さらなる成長に向けて前向きに進んでいきます。

そして未来に向けたチャレンジを進める一方で、引き続き「安全」を経営のトッププライオリティとして、「究極の安全」をグループ全社員が一丸となって追求していきます。

具体的には、安全5ヵ年計画「グループ安全計画2023」のもと、安全性の高い鉄道システムづくりに取り組みます。また、「仕事の本質」の理解を深め、環境変化に対応できる人材を育成していくほか、自然災害対策やホームドア整備、踏切事故対策等を着実に進めます。

2021年度は再成長に向けたリカバリーを図り、確実に前進する

2021年度は、「決意と実行」の年と位置付け、中長期的な視点での構造改革を断行し、具体的な成果を出すことで確実に前進する年にしていきます。2021年3月のダイヤ改正からポストコロナ社会に向けた2つの重点施策をスタートしました。

一つ目が首都圏で実施した「最大30分の終電繰り上げ」です。大きな狙いは、メンテナンス時間を確保して工事に従事する皆さんの「働き方改革」を実現するところにあります。ホームドアなどの設置といった駅の工事が増えている一方で、人口減少や高齢化などにより工事に従事する作業員数は減少傾向にあり、いかに工事の効率性を高めるかが課題になっています。終電繰り上げで確保した30分により工期を短縮するとともに、機械化を推進するなど、効率的なオペレーションを構築していきます。工期の短縮によりホームドアなどの設置が進めば、安全やサービス向上にもつながります。

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二つ目が「ピークシフト」です。ここでのピークには「季節波動」と「一日の波動」の二つがありますが、「季節波動」はゴールデンウィーク、お盆や年末年始といった鉄道をご利用になるお客さまが増える時期のことです。「一日の波動」については、朝のピークタイムをいかに分散するかに尽きます。その第一歩として「オフピークポイントサービス」をスタートさせました。「密を避けたい」というお客さまの要請がますます強まる中で、単に時差出勤をお願いするだけでは限界がありますので、具体的なメリットの提示が必要です。ポイント付与にとどまらず、その先の「オフピーク定期券(時間帯別運賃)」の導入検討も進めています。オフピーク時間帯に使われる定期券を値下げし、ピーク時間帯でも乗車できる定期券は広く薄く値上げすることを想定しています。定期代を負担する企業や制度を所管する関係各所とも相談しながら、実現に向けて課題を解決していきたいと考えています。時期・時間帯を分散しご利用いただくことができれば、ピークのボリュームに合わせていた設備・要員の圧縮につながり、コスト削減も可能になります。鉄道事業をよりサスティナブルにしていくためにも中長期的な構造改革が欠かせません。

「変革のスピードアップ」の真意

当社グループが推進するグループ経営ビジョン「変革2027」は、2018年の発表当時、人口減少やEコマースを中心とした人々のライフスタイルの変化を踏まえ、10年後の未来に向けて我々自身のビジネスモデルを変革することを目指したものでした。しかし、コロナ禍の影響により当初想定していた未来が突如、目の前に現れ、この「変革2027」を早急に実現する必要に迫られました。目指すべき方向性自体は変えないものの、実現に向けた取組みのレベルとスピードを上げ、ポストコロナ時代に求められる新たなテーマに対応していくことが「変革のスピードアップ」の真意です。

また、2025年度に向けた新たな目標として、運輸セグメントとそれ以外のセグメントの営業収益比率を「6:4」に設定し、将来的には「5:5」の早期実現を目指すこととしました。これまでの当社グループの事業、多くのお客さまにご利用いただく鉄道や駅という限られた領域の中でサービスを展開することをメインとしてきましたが、今後、人が集まる機会や移動する機会が縮小していくことが想定されるため、お客さま一人ひとりに焦点を当てた価値提供に発想を変えていくことが重要になります。当社グループは、輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスの3つの事業を有していますが、お客さまのニーズに合わせ、これら3つの事業が重なる部分を広げ、それぞれが相乗効果を発揮させていくことが、収益比率を変える鍵になります。例えばJRE POINTを通じてお客さま一人ひとりのニーズを把握し商品を提供する、あるいは列車を利用した荷物輸送を拡大するなど、各事業の重なりから新たな価値を提供するサービスを創造していきます。

「暮らしのプラットフォーム」への転換を図るBeyond Stations構想

新たなビジネスの創出においては、「Beyond Stations構想」がポイントの一つとなります。この構想では当社グループが持つすべてを、リアルの強みを活かしつつデジタル領域と接続しながら、駅を「交通の拠点」を超えてヒト・モノ・コトが“つながる”「暮らしのプラットフォーム」へと変革することを目指しています。そのために、Eコマースとの連携や5Gアンテナの設置といったインフラシェアビジネスをはじめとした新たなサービスを展開していく考えです。さらに、ピークシフトが実現すれば、駅の余剰スペースを活用したさまざまな事業を展開できると考えています。物理的な空間を超えて、駅というインフラを立体的に活用していきます。

2020年に開業した高輪ゲートウェイ駅は、「Beyond Stations構想」にもつながる当社グループが目指す新たな駅のモデルです。無人のコンビニやモバイルオーダーのカフェ、シェアオフィスといった新たな機能を有するとともに、ロボットによる警備・清掃、アバターによる案内などの実証実験に取り組みました。また、高輪ゲートウェイ駅を中心に、駅と街が一体となった「100年先を見据えた新たなまちづくり」にも取り組んでいきます。2024年度を予定しているまちびらきの際には、その完成形を皆さまにお見せすることができると思います。この高輪地区は、150年前に日本で初めて鉄道が走った記念すべき場所です。当社グループの原点である鉄道の歴史とこれからの未来をつなぐ、その中心として高輪ゲートウェイ駅を位置づけていきます。

新しいライフスタイルに対応した価値提供の実現と働き方改革

当社グループはこれまで、駅と鉄道を中心としたサービスの利便性向上を事業の中核として据えてきましたが、今後は、暮らしや働き方の変化に合わせて何を提供していくべきか、という発想で事業を進めていきます。例えば、サテライトオフィスやシェアオフィス、また、ワーケーションといった新しい働き方に適した価値提供や、地方の名産品や生鮮食品をJRE MALLで購入できるようにするなど、地方の活性化にも意識して取り組んでいきます。

営業収益の比率を運輸セグメントとそれ以外のセグメントで5:5にしていくためには、大きな構造転換が必要になります。

現在、駅社員は窓口で紙のきっぷを売る、案内をすることが業務の中心になっていますが、チケットレス化が進めば、お客さまは駅の窓口や券売機に立ち寄ることなく、ご自身のペースで列車をご利用いただけるようになります。駅社員にとっても定型・定例業務が縮小し、フレキシブルな働き方が可能になります。もちろん、駅でのご案内や異常時の対応は引き続き重要な仕事になりますが、それ以外の時間で、例えば地方であれば、地域活性化のために観光ビジネスをいかに発展させるかといった仕事に取り組むことができます。首都圏であれば、生活サービスと駅の仕事を組み合わせた働き方などができるようになります。新たな価値提供に向けて、こうした働き方改革を何としても実現していきたいと考えています。

経営体質の抜本的強化に向けた財務等の方針

新たなビジネスを創造するためにも、それを支える経営体質の強化に取り組むことが重要です。まずは、コロナ禍の影響によりマイナスに転じたキャッシュ・フローを正常化することに注力します。2020年度は緊急対策としてグループ全体で1,500億円のコストダウンを実施しましたが、2021年度はさらに700億円のコストダウンに取り組みます。投資については全体としては絞りこむものの、安全の確保に必要な投資と、将来の成長に向けた投資は、着実に実施していく考えです。足元の収入状況は厳しいものの、新型コロナウイルスのワクチン接種が順調に進めば、徐々にご利用も回復してくると想定しています。収入の動向を見極めながら財務の安定性を向上させていきます。さらには、不動産ビジネスの拡大にも取り組みます。当社グループは、自前のストックを多数保有しており、これを回転型ビジネスで効率的に収益化するため、2021年4月にJR東日本不動産投資顧問(株)を設立しました。すでに立ち上げている私募ファンドの組成を加速し、規模拡大に取り組むとともに、将来的にはより多くの資金を集めるREITのような仕組みを構築していきます。併せて、連結ROAも重要指標として位置づけていますので、その早期回復に取り組んでいきます。

一番の課題である固定費の削減についても、中長期的な構造改革を着実に進めて参ります。具体的には、ワンマン運転の拡大による運行体制のスリム化や、チケットレス・モバイルシフトなどによる駅業務の変革(効率的な販売体制の構築)、CBMや機械化を通じたスマートメンテナンスの推進、さらに設備のスリム化などに取り組みます。また、マルチタスク化をはじめとしたグループ会社の生産性向上も進めます。2027年度における鉄道事業のオペレーションコストの2019年度比1,000億円削減に向け、ポストコロナ社会におけるご利用の変化と、将来の人口減少に対応するための柔軟なコスト構造を目指します。また、地方交通線についても運営の効率化に取り組みつつ、地域のニーズを十分に把握した上で、持続可能な交通体系を地域の皆さまと一緒に検討していきたいと考えています。

ESGの取組みによりサスティナブルな社会を実現

当社グループは「変革2027」の推進によるビジネスの創造を通じ、社会課題の解決とSDGsの達成に取り組んでいます。そのためにもESG経営の実践は重要です。E(環境)については、2050年までに当社グループ全体のCO2排出量を「実質ゼロ」にする「ゼロカーボン・チャレンジ2050」の実現に取り組んでいきます。当社グループは発電所も有しており、電気を「つくる」「送る・ためる」「使う」という3つのフェーズにおいてCO2の排出量削減を進めていきます。また、今後、ポイントになるのが水素の活用です。当社グループは水素社会の実現にコミットし、水素発電や燃料電池車両、総合水素ステーションといった取組みを、さまざまな企業と連携して進めていく考えです。さらに、2020年からはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークに則った情報開示を開始しています。2020年度は気候変動による人口動態と過去の自然災害損失額から将来の財務的影響を分析し開示しましたが、2021年度は、2019年の台風被害をはじめ、気候変動による河川氾濫を想定した将来の財務的影響の分析を行い、自然災害対策の妥当性検証にも活用していきます。今後もさらなる積極的な開示に取り組みたいと考えています。

S(社会)については、地方創生に取り組み、地方をいかに活性化させていくかということに注力していきます。観光への取組みをさらに拡充するとともに、MaaSといったローカルDXをはじめとした新たな施策にも挑戦していきます。例えば、予約から移動、決済までの流れをシームレスに完結させる仕組みを構築し、それを地方の営業ネットワークとつなげることで利便性を向上させ、観光客の増加を目指します。オンデマンド交通もその一例です。また、地方のまちづくりにも積極的に参加する考えです。地方の人口が減っているのは事実であり、今後さらなる減少が想定されます。そのため、秋田や青森といった地方の中核都市において、地元の自治体と一緒になって、駅を中心としたまちづくりに取り組んでいきます。DXやテレワークの拡大により、地方移住も新たな働き方における選択肢の一つになっており、そうしたニーズの受け皿となるべく、ワーケーション事業や魅力的なまちづくりを進める考えです。さらに、新たな観光の形として、地方の一大産業である農業の支援と一体となったサービスを創出していきます。2021年3月には体験農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」を開業しました。アグリツーリズムを通じて新たな交流を創出し、その活性化を実現していきます。

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これらの取組みを着実に推進し、当社グループの持続的成長および中長期的な企業価値の向上を図るためには、G(ガバナンス)の充実が極めて重要です。コンプライアンス、安全・安心の確保、財政上の損失の防止、財務体質の健全性の確保などに加え、新たな事業分野への展開などの観点も踏まえたリスクマネジメントに取り組むなど、グループの価値向上を目指します。2022年4月には、東京証券取引所で新市場区分への移行が行われます。移行に先立ち、2021年6月には、「コーポレートガバナンス・コード」が改訂されました。当社グループでも、改訂を踏まえた対応を含めて、ガバナンスの一層の充実を図っていきます。

逆境をチャンスに、ステークホルダーの皆さまへ中長期的な価値を提供

コロナ禍という非常に厳しい環境においても、決して後ろを向くことなく、各職場で新しい取組みを推進した社員に感謝するとともに、新たな可能性を感じています。「変革」の主役となるのは当社グループで働く社員一人ひとりです。社員のエンゲージメントの向上が、当社グループの発展につながります。今後、グループが進むべき方向や目標と社員一人ひとりの目標をよりマッチングさせることで、参画と成長のサイクルを回していきます。さらにフレキシブルに働ける環境を整備していきますので、仕事の幅を広げるとともに、ぜひさまざまな考えをボトムアップで実現していってほしいと思っています。

我々は「地域に生きる」というベースのもと、30年以上にわたり、地域密着を基本に事業を展開してきました。これまでは主に鉄道運行を通じて地域の皆さまと関わってきましたが、今後はその範囲を広げ、前述の通り、ローカルDXの推進やまちづくり、移住の支援などを通じて地域社会の発展に貢献していきます。

最後に、このような厳しい状況においても、変わらずご支援いただいているステークホルダーの皆さまに対しましては、中長期的な構造改革を完遂することで、再び成長し続ける体質に生まれ変わることをお約束します。まだ1~2年は厳しい状況が続くかと思いますが、ぜひ中長期的な視点で引き続きのご支援をお願いいたします。

東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長
深澤 祐二